「人間の原点は尿と便なんだ!」ウンコ漏らす父、絶望する母【「認知症の父の介護日記」】
母と子はこうしてだんだん疲弊する⑤
◼️まあちゃん、特養ホームに戻る
2019年1月10日(木)【ネーヤ・記】
特養の部屋に入ると夫は「忘れられたかと思ったよぉ~」と言う。毎日甘いモノや果物が食べたくて死にそうだったとのこと。ようかん、オレンジ、みかん、立て続けに貪る。体重70・4㎏。
2019年1月14日(月)
到着した私(潮)の顔を見て、ほんの一瞬「?」という顔をしたので、そろそろ忘れられるのかなと思った。
「もう誰も来ないと思っていた」を連発。
最近、むせて咳き込むことが多くなった? 気管に入っちゃうのか、長いこと咳き込む。誤嚥(ごえん)性肺炎が怖いと書こうとして気がついた。のどに張り付くようなハチミツパイを買ってきた私が悪い。
着ぶくれさせて、外を車椅子で散歩しているときは冗舌なまあちゃん。まともに会話できる。温泉行こうとか。長野県の鹿教湯(かけゆ)の話をしたら、超乗り気だった。
鼻毛と耳毛をカット。ネーヤも老眼だから、細かいところが見えていないらしい。
2019年1月17日(木)【ネーヤ・記】
食堂で施設長の聞き取り調査の最中。日付、生年月日、フルネームなどを聞かれて、夫はよどみなく正確に答えていた。
きなこヨーグルト、黒糖饅頭、月餅など、ポロポロと床にこぼしながら食べている。
風もなく、穏やかな晴天。ティッシュペーパーもなくなったので、近所のスーパーに車椅子で連れていく。トマトジュースとチョコレートも買う。往復20分。部屋に戻ると、大量の便が出る。スタッフさんに報告すると、我が事のように喜んでくれる。
もうこれは夫の長年のクセなのだが、いつも何かの直前にトイレに行くから困る。食事の時間で皆さんが食べ始めているのにトイレへ。その後、ぐらぐらと揺れながら歩いて行くので、皆さんにも迷惑ではないか。夫に言ったら「余計な心配だ」と怒られる。
2019年1月19日(土)
「ネーヤは今日来ないのか」を5回立て続けに聞いてくる。
「そんなに会いたいの?」と聞いたら収まった。のどが渇いていたらしく、午前中だけで800㏄くらい飲んだとのこと。「その後トイレに20分立てこもりましたが、出なかったようです」とスタッフさん。
カレーパン、りんご、柿、あんぱん、スイートポテト、小魚に長野銘菓のくるみそばを持参。「なんか食い物持ってきた?」と聞くまあちゃん。食べることしか楽しみがない。
ネーヤとスーパーに行ったというので、防寒&マスクをさせて連れていく。私はどこにスーパーがあるのかわからないので、まあちゃんに道案内させる。案の定、途中で迷う。
が、うろうろしているうちに、ホームから徒歩5分くらいの場所にあるとわかった。散歩して、目に刺激が入るとよくしゃべる。
そして、とうとうネーヤにホームから電話がかかってきた。インフルエンザが猛威をふるっているので、しばらくは家族の面会も禁止だそう。業者の出入りも禁止になるので、訪問マッサージも一時中断だ。いよいよまあちゃん、本格的なおひとりさまライフへ突入。100人の免疫力が弱った老人がいる施設では、風邪もインフルエンザも死を招く病気である。この措置は正しい。ただ、外部接触がなくなるので、ボケが進みそうな気がする。
警報が解除されたのは、2月12日。約1か月間、まあちゃんが心配だったので母も私も手紙を送ることにした。母の手紙は便せん6枚ほどの大作。私はちょろちょろの一筆箋程度。いざ書こうと思っても、別に伝えることがないんだよなぁ。
(『親の介護をしないとダメですか?』より構成)
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